製造業では、都市部のオフィス勤務とは異なり、工場や物流拠点が郊外に立地しているケースが多く、マイカー通勤が前提になりやすいという特徴があります。
そのため、令和8年度税制改正による通勤手当の非課税限度額の見直しは、製造業の経営にとって実務上の影響が大きいテーマです。特に、長距離通勤者への支給額や、駅前・工場周辺の駐車場利用の扱いは、採用力・定着率・給与実務に直結します。
今回の改正では、自動車や自転車などの交通用具を利用する従業員のうち、片道65km以上の通勤者について非課税限度額が引き上げられ、さらに一定の要件を満たす駐車場等の料金相当額は月5,000円を上限として非課税枠に加算できるようになりました。制度の詳細は国税庁が案内しています。
令和8年改正で通勤手当は何が変わったのか
令和8年度税制改正では、通勤のために自動車・自転車などの交通用具を使用する人に支給する通勤手当について、非課税限度額の区分が見直されました。特に従来は「55km以上」で一律だった上限が、65km以上の距離帯で細分化された点が大きな変更です。
また、税制改正大綱では、通勤手当の非課税限度額引上げ等が盛り込まれており、令和8年度改正事項の一つとして明記されています。
製造業で影響が大きい理由
製造業では、次のような事情から今回の改正の影響を受けやすい傾向があります。
- 工場が郊外や工業団地にあり、公共交通機関だけでは通勤しにくい
- 早朝・深夜シフトがあり、マイカー通勤が現実的
- 人手不足を背景に採用エリアが広域化している
- 駅前駐車場や工場近隣駐車場を利用するケースがある
こうした環境では、通勤費の課税・非課税の取り扱いが、従業員の手取り額にも、企業の採用競争力にも影響します。添付原稿でも、地方エリアや工場・物流拠点など、長距離通勤が発生しやすい現場での影響が大きいと整理されています。
長距離通勤者の非課税限度額はいくらになったのか
国税庁によると、自動車や自転車などの交通用具を利用する人のうち、令和8年4月1日以後に支給される通勤手当について、片道65km以上の区分は次のとおりです。
- 55km以上65km未満:38,700円
- 65km以上75km未満:45,700円
- 75km以上85km未満:52,700円
- 85km以上95km未満:59,600円
- 95km以上:66,400円
これにより、これまで一部が課税対象になっていた長距離通勤者について、より実態に近い範囲まで非課税処理できる可能性が広がりました。
特に、地方工場や複数拠点を持つ製造業では、片道65kmを超える通勤者が珍しくないため、見直し効果は小さくありません。
駐車場代も非課税になるのか
今回の改正でもう一つ重要なのが、一定の要件を満たす駐車場等の料金相当額の扱いです。
国税庁は、一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする人について、月5,000円を上限として、通勤距離に応じた非課税限度額に加算できるとしています。
添付原稿でも、駅やバス停周辺の駐車場、勤務先周辺の駐車場など、いわゆるパークアンドライドや通勤目的で継続利用する駐車場が想定されていると説明されています。
たとえば、通勤距離が25km以上35km未満の従業員で、通常の非課税限度額が19,700円、駐車場代が4,000円であれば、合計23,700円まで非課税となる考え方です。
製造業の経営者が特に確認すべき3つのケース
1. 郊外工場へ長距離通勤している従業員が多い
工場立地の都合で採用エリアを広げている企業では、従業員が片道65km以上通勤していることもあります。
この場合、従来よりも高い非課税枠が適用できる可能性があり、手取り改善による定着率向上も期待できます。
2. 駅前駐車場や工場周辺駐車場の費用を補助している
工場への直接通勤だけでなく、自宅から駅まで車で移動し、その後電車で通うケースもあります。
一定要件を満たせば、こうした駐車場代の一部を非課税で扱えるため、従業員負担の軽減策として有効です。
3. 配置転換や応援で勤務地が変わりやすい
製造業では、工場間応援、繁忙期の配置転換、物流拠点への一時配属などで通勤距離が変わることがあります。
通勤距離区分が変われば非課税限度額も変わるため、異動のたびに再判定する運用が必要です。これは添付原稿で派遣先変更時の見直しが必要とされている考え方と同様で、製造業でもそのまま当てはまります。
採用・定着の観点でなぜ重要なのか
製造業では、賃金水準だけでなく、通勤負担の軽さが応募率や定着率に影響しやすい傾向があります。
とくに地方では、通勤距離が長くなりやすく、ガソリン代・駐車場代・有料道路代などが家計負担として重くなりがちです。今回の改正を踏まえて通勤費制度を見直すことは、単なる税務対応ではなく、採用条件の改善として打ち出せる可能性があります。
たとえば求人票や採用ページで、
「遠方からのマイカー通勤にも配慮」
「駅前駐車場利用者の通勤費制度あり」
「工場勤務者の通勤実態に合わせて制度見直し」
といった訴求ができれば、応募者に安心感を与えやすくなります。
実務で見直すべきポイント
製造業の経営者・総務人事がまず確認したいのは、次の5点です。
通勤手当規程
現在の規程が、実費支給なのか、上限ありなのか、一律支給なのかを確認しましょう。
税制が変わっても、社内規程が自動で変わるわけではありません。必要に応じて通勤費規程や賃金規程の改定が必要です。
距離算定方法
片道距離の判定基準が曖昧だと、非課税処理の根拠が弱くなります。
地図アプリ、社内申請書、異動時の再確認ルールなどを明文化しておくと実務が安定します。
駐車場代の証憑管理
駐車場代を非課税で扱う場合は、契約書や領収書、利用実態の確認体制が重要です。
添付原稿でも、契約書・領収書・利用実態確認の整備が必要とされています。
給与システム設定
給与計算システムの非課税判定ロジックや上限額設定の変更が必要になります。
令和8年4月以後支給分からの適用を前提に、ベンダーや社労士へ早めに確認しておくと安全です。
異動・応援時の再判定
工場間異動や勤務地変更があった場合、通勤区分の見直しが必要です。
特に製造業は季節変動やライン増設で配置変更が起こりやすいため、異動フローに通勤費再確認を組み込むのがおすすめです。
経営者が今すぐ取るべき対応
製造業の経営者としては、今回の改正を単なる税務変更で終わらせず、次の順で進めるのが実務的です。
- 対象者の洗い出し
片道65km以上の通勤者、駐車場利用者を抽出する - 現行規程の確認
通勤費規程、賃金規程、申請書式、運用ルールを確認する - 給与実務の調整
給与システム設定、非課税判定、年末調整への影響を整理する - 採用施策への反映
遠方通勤者にも配慮した制度として採用広報に活かす - 証憑・申請フローの整備
距離確認、駐車場証憑、異動時再申請のフローを定着させる
まとめ
令和8年度税制改正によって、製造業で多いマイカー通勤・長距離通勤・駐車場利用に関する通勤手当の非課税ルールは、これまでより実態に合ったものになりました。
とくに地方工場や郊外拠点を持つ企業では、従業員の手取り改善、採用力強化、定着率向上につながる可能性があります。
経営者として重要なのは、改正内容を知るだけでなく、自社の通勤費規程・給与システム・証憑管理・採用訴求まで一体で見直すことです。
通勤費制度はコスト項目であると同時に、製造業の人材確保に直結する経営施策でもあります。今回の改正を、制度対応ではなく採用競争力を高める見直しの機会として活用していきましょう。
参考情報