「退職勧奨に応じたはずの従業員が、翌月に労働局へ相談していた」——。令和7年度のあっせん申請は前年度比16.0%増の4,486件、争点で最も多いのは「解雇」の892件です。本記事では、製造業の現場で起きやすい紛争の型と、会社側が最初に押さえるべき対応を、厚生労働省の一次情報をもとに整理します。
公開日:2026年9月16日更新日:2026年9月16日執筆:株式会社オアシス 製造業支援チーム出典:厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」ほか
この記事の結論
- 個別労働紛争解決制度は「総合労働相談」「助言・指導」「あっせん」の3段階。労働基準法違反の是正を扱う労働基準監督署とは、対象が明確に分かれている。
- 令和7年度のあっせん申請は4,486件(前年度比16.0%増)。争点は「解雇」892件が最多で、次いで「いじめ・嫌がらせ」868件。
- あっせんは参加が強制ではなく、欠席しても罰則はない。ただし未解決のまま労働審判・訴訟へ移行するリスクが残る。
- 処理は2か月以内に72.6%。全体の合意成立は27.0%だが、双方が参加した場合は58.4%——出欠の判断が結果を大きく左右する。
- 勝敗を分けるのは特別な法知識ではなく日常の記録。就業規則・労働条件通知書・指導記録・面談メモが、そのまま会社側の防御材料になる。
目次
- 個別労働紛争解決制度とは?3つのステップを5分で理解する
- 【2026年最新】数字で見る——経営者が押さえるべき5つのデータ
- なぜ製造業で紛争が起きるのか?現場に固有の5つの火種
- あっせんの実際——会社側に何が届き、どう進むのか
- あっせん・労働審判・訴訟の違いを比較する
- 会社側がやってはいけないNG対応6つ
- 紛争を「起きる前」に止める7つの実務ポイント
- よくある質問(FAQ)
- 2026年の法改正動向と、今からできる備え
- まとめ——「紛争が起きてから相談する」では遅い
FIG. 01個別労働紛争解決制度とは?3つのステップを5分で理解する
個別労働紛争解決制度とは、個々の労働者と事業主との間の、労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、迅速に解決するための制度です。厚生労働省の定義では、次の3つの方法で構成されています。
ステップ1:総合労働相談(全国378か所)
都道府県労働局・労働基準監督署・駅近隣の建物など全国378か所(令和8年4月1日現在)に設置された「総合労働相談コーナー」で、あらゆる労働問題に関する相談にワンストップで対応します。専門の相談員が応対するため、従業員はまずここに電話をかけます。会社として「相手がどの段階にいるのか」を知ることは、初動対応の判断材料になります。
ステップ2:助言・指導(都道府県労働局長)
民事上の個別労働関係紛争について、都道府県労働局長が紛争当事者に対して解決の方向を示し、自主的な解決を促す制度です。助言は当事者の話し合いを促進するために口頭または文書で行われ、指導は当事者のいずれかに問題がある場合に、問題点を指摘して解決の方向性を文書で示します。
会社側にとって重要なのは、指導は文書で出されるという点です。行政の判断が文書として残るため、その後のあっせん・労働審判における会社側の立場に影響します。
ステップ3:あっせん(紛争調整委員会)
都道府県労働局に設置された紛争調整委員会のあっせん委員(弁護士や大学教授など労働問題の専門家)が、労働者と会社の間に入って話し合いを促進し、解決を図る制度です。非公開で行われ、裁判のような公開の法廷はありません。
| 方法 | 実施主体 | 内容 | 費用 | 拘束力 |
|---|---|---|---|---|
| 総合労働相談 | 都道府県労働局・労基署等 (全国378か所) | 専門の相談員による情報提供・相談対応 | 無料 | なし |
| 助言・指導 | 都道府県労働局長 | 解決の方向を示し、自主的解決を促進(指導は文書) | 無料 | なし |
| あっせん | 紛争調整委員会 (あっせん委員) | 専門家が間に入り話し合いを促進。あっせん案の提示も | 無料 | 合意すれば和解契約として拘束 |
対象外になるケースに注意
この制度が扱うのは「労働条件その他労働関係に関する事項についての、個々の労働者と事業主との間の紛争」のうち、労働基準法等の違反に関するものを除いた「民事上の個別労働関係紛争」です。賃金未払いなど法令違反の疑いがある場合は労働基準監督署の管轄になります。また、職場のパワーハラスメントに関する相談は、労働施策総合推進法(令和4年4月全面施行)に基づいて別に扱われます。
FIG. 02【2026年最新】数字で見る——経営者が押さえるべき5つのデータ
厚生労働省が2026年7月7日に公表した「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」から、経営判断に関わる数字を整理します。
総合労働相談119万8,010件前年度比0.3%減/18年連続で100万件超
あっせん申請4,486件前年度比16.0%増
あっせん最多争点解雇 892件前年度比12.6%増/全申請の18.2%
| 区分 | 件数 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 総合労働相談(全体) | 119万8,010件 | 0.3%減 |
| うち法制度の問い合わせ | 78万3,579件 | 3.8%減 |
| うち労働基準法等の違反の疑い | 22万9,156件 | 10.4%増 |
| うち民事上の個別労働関係紛争 | 27万7,053件 | 3.5%増 |
| 助言・指導の申出 | 9,616件 | 8.5%増 |
| あっせんの申請 | 4,486件 | 16.0%増 |
出典:厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します(2026年7月7日)
データから読み取れる3つのポイント
- 相談は「高止まり」、解決手続きは「増加」。総合労働相談件数は18年連続で100万件を超え、ほぼ横ばいです。一方で、助言・指導が8.5%増、あっせんが16.0%増と、話し合いで終わらず行政の手続きに進む案件が増えています。従業員側の権利意識と情報量が上がっていることの表れです。
- 民事上の紛争で14年連続最多は「いじめ・嫌がらせ」。55,614件(前年度比1.1%増)に達し、あっせんでも868件(同21.2%増)と最も伸びました。業種を問わず、職場の人間関係そのものが最大の紛争源になっています。
- 処遇の見直しが紛争化しやすい。民事上の相談では「自己都合退職」38,386件、「労働条件の引き下げ」33,368件、「解雇」32,651件が上位を占めます。助言・指導では「労働条件の引き下げ」が1,220件(10.6%増)で最多、あっせんでは「退職勧奨」362件、「労働条件の引き下げ」453件(13.5%増)と、賃金・処遇・雇用の見直しが直接の引き金になっています。
業績変動の大きい製造業では、繁忙期の増員と閑散期の調整、手当や歩合単価の見直しが常についてまわります。上記の数字は、その調整の「やり方」次第で紛争になるかどうかが決まることを示しています。
FIG. 03なぜ製造業で紛争が起きるのか?現場に固有の5つの火種
個別労働紛争は業種を選びませんが、製造業には特有の発生パターンがあります。実際の統計と現場の実感を重ねると、火種は次の5つに集約されます。
火種1:解雇・雇止め(有期契約者を多く抱える現場)
あっせん申請では「解雇」が892件で最多、次いで「雇止め」が475件(前年度比9.7%増)です。製造業は、期間工・契約社員・パートなど有期契約の比率が高く、「契約を更新し続けた実績」が紛争の起点になります。何度も更新を重ねた従業員については、雇止めに客観的で合理的な理由が求められる場面があるためです。「更新は毎回会社の判断」と就業規則に書いてあれば安全とは限りません。
火種2:退職勧奨と「自己都合退職」の合意
民事上の相談では「自己都合退職」が38,386件(いじめ・嫌がらせに次ぐ第2位)、あっせんでは「退職勧奨」が362件です。製造業では、配置転換や作業環境の変化を機に退職を打診するケースが多く見られますが、その声かけが繰り返されると「退職強要」として受け止められます。回数・時間帯・場所・同席者の有無が、後日の判断を分けます。
火種3:配置転換・出向
あっせんの「出向・配置転換」は168件。製造業では、ラインの異動、夜勤への変更、子会社・協力会社への出向など、生活設計に直結する異動が発生します。就業規則に「業務上の必要により配置転換を命じることがある」と定め、労働契約書に変更の範囲を示していれば、会社の裁量は一定程度認められます。逆に、選定理由を説明できない異動は紛争になりやすい領域です。
火種4:賃金・労働条件の引き下げ
助言・指導で最多、あっせんでも453件(13.5%増)と伸びているのが「労働条件の引き下げ」です。出来高単価の改定、手当の廃止、シフト手当の見直しなど、製造業の原価構造に直結する変更は、そのまま従業員の生活に影響します。就業規則の不利益変更には、変更の必要性・内容の相当性・手続きの妥当性が問われるため、一方的な通達は紛争化の典型です。
火種5:ハラスメント(14年連続で最多)
民事上の個別労働関係紛争の相談で「いじめ・嫌がらせ」は55,614件と14年連続で最多、あっせんでも868件と前年度比21.2%増です。製造業では、3交替・多能工化・作業指示の強弱が人間関係に影響しやすく、職長・班長と一般作業者という明確な上下関係が生じます。近年はベテランから若手への指導が「叱責」と受け止められるケース、外国人材への配慮不足も目立ちます。
共通するのは「記録がない」こと
上記5つはいずれも、会社側の判断に「客観的な理由」と「説明の記録」があれば防げたケースが大半です。紛争は、法律違反がなくても、説明と記録が欠けたときに発生します。
FIG. 04あっせんの実際——会社側に何が届き、どう進むのか
多くの経営者にとって、最初の接点は「労働局から届く書類」です。ここから先の流れを、行政の公表資料に沿って確認します。
STEP 01申請
あっせん申請書の提出
申請できるのは、紛争が起きている事業所で働く(または働いていた)個々の労働者と、その事業主の双方です。会社側から申請することもできます。申請書を、事業所が所在する都道府県労働局(紛争調整委員会)へ提出します。
STEP 02事前調査
あっせん員の指名と双方からの聞き取り
あっせん員候補者の中から通常3名が指名され、あっせん作業に先立って事務局職員が双方から紛争の経過と主張の要点を聞き取ります。申請書の内容はこの時点で相手方に伝わります。必要資料の提出を求められた場合は、できる限り協力することが望ましい局面です。
STEP 03あっせん期日
非公開の場で、あっせん員が間に入る
双方の都合の良い日程で実施されます(複数回に及ぶこともあります)。あっせん員は当事者から個別に事情を聴き、説得・意向の打診・「あっせん案」の提示を行って解決を促します。
STEP 04終結
解決・打切り・取下げ
①解決=双方が合意した場合、②打切り=被申請者が応じない、歩み寄りが見られないと判断された場合、③取下げ=自主的に解決し申請が取り下げられた場合。会社側が正当な理由なく不参加の場合も打切りとなります。
処理期間と結果——「半分は2か月以内、合意は約4分の1」
| 項目 | 件数・割合 |
|---|---|
| 処理終了件数 | 4,220件 |
| 1か月以内に終了 | 1,691件(40.1%) |
| 1か月超〜2か月以内 | 1,373件(32.5%) |
| 2か月超 | 1,156件(27.4%) |
| 合意の成立 | 1,141件(27.0%) |
| 打切り | 2,814件(66.7%) うち相手方の不参加によるもの 2,006件 |
| 取下げ | 234件(5.5%) |
| 双方が参加した場合の合意成立率 | 58.4% |
ここで押さえるべきは、打切り2,814件のうち2,006件が「相手方の不参加」によるものという事実です。すなわち、全体の合意成立率27.0%という数字は、欠席によって押し下げられている側面があります。会社側が出席し、主張と根拠を準備して臨めば、合意成立の可能性は58.4%まで上がる——この差は、初動の判断の重さを示しています。
出席する意味は「勝つ」ことだけではない
あっせんは交渉の場であると同時に、会社の主張を行政の記録に残す場でもあります。後日労働審判や訴訟に進んだ場合、あっせんでの対応(説明の一貫性、資料の有無、誠実さ)が一定の評価対象になります。欠席して打ち切らせることは、紛争を「先送り」するだけで、解決ではありません。
FIG. 05あっせん・労働審判・訴訟の違いを比較する
「あっせんに呼ばれた=裁判になる」ではありません。あっせんは、裁判や労働審判の前段階にある任意の話し合いです。それぞれの性格の違いを整理します。
| 項目 | あっせん (紛争調整委員会) | 労働審判 (裁判所) | 訴訟 (地方裁判所) |
|---|---|---|---|
| 実施主体 | 都道府県労働局の紛争調整委員会 | 地方裁判所(労働審判員=労使の代表+裁判官) | 裁判所 |
| 性格 | 行政型ADR・話し合いの促進 | 司法型ADR・原則3回以内の期日で審理終結 | 公開の法廷での審理・判決 |
| 費用 | 無料 | 申立てにかかる費用(比較的低額) | 訴額に応じた費用+弁護士費用 |
| 公開性 | 非公開・秘密厳守 | 非公開 | 原則公開 |
| 結論の拘束力 | あっせん案の受諾等による合意は民法上の和解として拘束 | 審判に異議が出なければ確定。異議があれば訴訟へ | 判決に拘束力 |
| 期間の目安 | 2か月以内の終了が72.6% | 原則3回以内の期日で終結(裁判所) | 長期化する傾向 |
出典:厚生労働省「個別労働関係紛争のあっせん」、裁判所「労働審判手続」、厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
なお、労働関係の訴訟は令和6年の新受件数が4,214件と高水準で推移しており、平均審理期間も長期化傾向にあります(裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」)。「早く・安く終わらせる」という目的では、あっせんの活用価値は高いと言えます。
都道府県労働委員会のあっせんという選択肢もある
労働局の紛争調整委員会によるあっせんとは別に、都道府県の労働委員会によるあっせん制度もあります。労働問題の専門家であるあっせん員が公益・労働者側・使用者側の三者構成で関与し、費用は無料、手続きは非公開・秘密厳守です。会社側からも申請できます。制度内容は都道府県ごとに異なるため、所在地の労働委員会への確認が必要です。
FIG. 06会社側がやってはいけないNG対応6つ
あっせんは手続きが簡単で、費用もかかりません。だからこそ、対応の粗さがそのまま不利になります。実務で問題になるのは次の6つです。
- 期日を無断で欠席・無視する。欠席に罰則はありませんが、打切りとなり、紛争は未解決のまま労働審判・訴訟へ移行し得ます。令和7年度は打切り2,814件のうち2,006件が相手方不参加でした。欠席は「解決の先送り」であり、解決ではありません。
- 「あっせんは行政に押し切られる場」と誤解して全面拒否する。あっせんには強制力がなく、あっせん案を受諾するか否かは会社の自由です。ただし、説明の場を放棄した記録は残ります。
- その場の勢いで口頭合意する。合意が成立すれば、民法上の和解契約として当事者を拘束します。金額・支払時期・条項・守秘義務まで確認せずに受諾するのは危険です。
- 従業員への報復的な言動・圧力をかける。「辞めてもらってよかった」といった発言、退職後の評価書の扱いなどは、その後に有利に働くことはありません。
- 判断権限のない担当者だけで臨む。経営判断が必要な場面で回答を保留すると、それ自体が「誠実に応じていない」という評価に繋がります。意思決定権者が関与する体制を整えてください。
- 資料を後出しする・整えすぎる。事前調査の段階で資料を出し、主張を一貫させること。後から形を変えた記録が出てくると、全体の信用を失います。
FIG. 07紛争を「起きる前」に止める7つの実務ポイント
個別労働紛争は、起きてからの対応より起きる前の設計で結果が決まります。製造業の事業所で、明日から着手できる順に7つ挙げます。
- 労働条件通知書と就業規則を、いまの運用に合わせる。2024年4月1日の労働条件明示ルールの改正により、すべての労働者について「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が求められるようになり、有期契約者には更新上限の明示、無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の明示も必要になりました(厚生労働省)。配置転換や職務変更の紛争では、この明示の有無が最初に確認されます。
- 処分・解雇は「手続き」と「根拠」を型で残す。指導・注意・改善の機会提供を段階的に行い、日付・内容・同席者を記録します。解雇の有効性をめぐる紛争では、結論よりもプロセスの記録が争点になります。
- 退職勧奨は設計して行う。誰が・いつ・どこで・誰と同席して・何回まで行うか、事前に社内で決めておきます。退職の合意は書面化し、内容を確認できる形で残します。
- 有期契約の更新ルールと雇止めの判断基準を明文化する。更新回数の上限、選定基準、面談時期を規定し、運用をそれに揃えます。「気づけば5年契約が続いていた」状態が最も危険です。
- ハラスメント相談窓口を「使われる」状態にする。相談は14年連続で最多の争点です。窓口の周知、相談記録の保管、事実確認の手順、処分の基準までを就業規則・規程に落とし込みます。
- 賃金・手当の見直しは「説明できる基準」で行う。単価改定や手当廃止は、対象・理由・代替措置・時期を整理し、従業員への説明の場を設けます。説明のない通達は、最も紛争化しやすい対応です。
- 労働局への対応は「初動72時間」で決まる。「労働局に相談した」「あっせん申請書が届いた」という第一報を受けた時点で、事実確認・記録の収集・方針決定を始めます。ここでの遅れが、あっせん・労働審判の帰趨を左右します。
対応の初期段階で相談しておくことが効果的
事実関係の整理、主張の組み立て、あっせん案の受諾可否の判断は、客観的な第三者とともに進めることで精度が上がります。「申請書が届いた・従業員が相談したと言っている」段階は、選択肢が最も多いタイミングです。
FIG. 08よくある質問(FAQ)
Q. 個別労働紛争解決制度を利用するのに費用はかかりますか?
かかりません。総合労働相談、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんはいずれも無料です。都道府県労働委員会が行うあっせんも、資料郵送の切手代等を除き費用はかかりません。Q. あっせんは会社側からも申請できますか?
できます。あっせんを申請できるのは、紛争が起きている事業所で働く(または働いていた)個々の労働者と、その事業主の双方です。配転命令を理由なく拒否されている、退職金の上乗せを求められている、といった使用者側からの申請も想定されています。Q. あっせんに応じない(欠席する)とペナルティはありますか?
あっせんは参加が強制される手続きではなく、欠席しても罰則はありません。ただし相手方が不参加の場合は打切りとして終了し、紛争が未解決のまま労働審判や訴訟に移行する可能性が残ります。令和7年度の打切り2,814件のうち2,006件が相手方の不参加によるものです。Q. あっせんの結果には拘束力がありますか?
あっせん手続き自体に強制力はありませんが、あっせん案を受諾するなどして合意が成立すれば、民法上の和解契約として当事者を拘束します。内容を精査せずに安易に合意することは避け、金額・時期・条項まで確認したうえで判断してください。Q. あっせんと労働審判はどう違いますか?
あっせんは都道府県労働局の紛争調整委員会が行う行政型の話し合いで、費用は無料、非公開、合意には任意性があります。労働審判は裁判所が行う司法型の手続きで、原則として3回以内の期日で審理を終結し、合意に至らない場合は審判が出て、異議があれば訴訟に移行します。Q. 労働基準監督署への相談と何が違いますか?
労働基準監督署は労働基準法等の違反の是正を扱う機関です。個別労働紛争解決制度が対象とするのは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争で、労働基準法等の違反に関するものを除いた「民事上の個別労働関係紛争」です。賃金未払いなど法令違反が疑われる事案は監督署の管轄になります。Q. あっせんの申請に期限はありますか?
あっせんの申請に法令上の期限は設けられていません。ただし、賃金の支払請求などには法律上の時効があり、期間の考え方は請求内容によって異なります。個別の事案については、早い段階で専門家に確認してください。Q. あっせんの内容は外部に公開されますか?
あっせん手続きは非公開です。申請書を受理した後、申請者の氏名・申請内容は相手方に伝わりますが、関係者以外にあっせんの秘密は厳守されます。取引先や他の従業員に知られることを過度に恐れて、対応を放棄する必要はありません。
FIG. 092026年の法改正動向と、今からできる備え
個別労働紛争の背景にある労働法制も動いています。2025年に厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表し、労働時間・休日・休暇制度を中心に論点が整理されました。当初2025年の通常国会での法案提出が想定されていた労働基準法の改正案は提出が見送られ、最短で2026年の通常国会での提出、施行は早くても2027年以降となる見通しです。
議論されている主な論点には、次のようなものがあります。
- 14日以上の連続勤務の禁止(休日確保の強化)
- 勤務間インターバル制度の導入義務化
- 法定休日の特定義務化、年次有給休暇の賃金算定ルールの変更
- 副業・兼業時の労働時間通算ルールの見直し
- 週44時間特例措置の廃止、管理職の範囲の見直し
- 「つながらない権利」の法制化の検討
出典:スタッフサービス「【2026年最新】労働基準法改正は見送りへ|今後の施行時期と7つの重要ポイント」
公布されてから動いても間に合わない
連続勤務の上限やインターバルの義務化は、シフトの組み方そのものを変える論点です。多能工化・交替勤務・繁忙期の集中を前提にした製造業の現場では、制度設計から運用開始までに数か月を要します。紛争予防と同じく、改正前の準備が競争力の差になります。
FIG. 10まとめ——「紛争が起きてから相談する」では遅い
個別労働紛争解決制度は、労働者が使いやすい、無料で、非公開の手続きです。だからこそ、会社側の準備の差がそのまま結果の差になります。最後に、この記事の要点を3行で整理します。
- 制度を正しく知る。総合労働相談 → 助言・指導 → あっせんの3段階。対象は民事上の紛争で、労働基準法違反は監督署の管轄。あっせんは会社側からも申請できます。
- 数字で現実を知る。あっせん申請は前年度比16.0%増の4,486件、最多は「解雇」892件、最も伸びたのは「いじめ・嫌がらせ」で21.2%増。2か月以内に72.6%が終了し、双方が参加すれば合意成立率は58.4%です。
- 日常の記録が防御になる。就業規則・労働条件通知書・指導記録・面談メモ。特別な法知識より、日々の記録と説明の積み上げが紛争の帰趨を決めます。
「退職勧奨に応じたはずなのに、労働局から書類が届いた」「ベテランの指導がハラスメントだと言われた」——こうした相談は、初動の判断で解決の道筋が変わります。状況を把握した時点で、一度専門家の目を通しておくことをおすすめします。
労務トラブルの「初動」を、経営課題として一緒に整理します
株式会社オアシスは、製造業の経営者と並走する経営コンサルティング会社です。個別労働紛争の予防・対応方針の整理、就業規則や労働条件通知書の運用見直し、労務リスクの棚卸しまで、現場の実態に沿ってご支援します。
「まだ何も起きていないが不安がある」という段階のご相談も歓迎です。無料相談を申し込む
執筆者
株式会社オアシス 製造業支援チーム
製造業を中心に、人事制度・労務リスク管理・事業承継までを一貫して支援。従業員規模10〜300名の事業所を中心に、労働局対応の初動支援、就業規則の整備、ハラスメント防止体制の構築を手がけています。
REF.参考資料・出典
- 厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します(2026年7月7日)
- 厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(PDF)
- 厚生労働省「個別労働関係紛争のあっせん」
- 厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
- 裁判所「労働審判手続」
- 裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」(令和6年)
- スタッフサービス「【2026年最新】労働基準法改正は見送りへ|今後の施行時期と7つの重要ポイント」
本記事は、厚生労働省・裁判所等が公表した資料に基づき2026年9月16日時点の情報を整理したものです。制度の運用や統計値は更新されるため、実務判断にあたっては最新の公表資料と、個別事案に応じた専門家の確認を併せてご利用ください。