「残業時間は以前より減った」「有給休暇もきちんと取得させている」「ハラスメント研修も実施している」。それでも、若手社員が体調を崩して退職してしまう——。製造業の経営者や工場の管理担当者の方から、「これ以上、何を改善すればいいのか」という声を聞くことがあります。

近年、従業員の心身の不調を生み出すのは、長時間労働や休日出勤が当たり前の「ブラック企業」だけではありません。一見すると働きやすい環境になった職場でも、若手社員が「体調不良」を理由に辞めるケースが増えています。この問題を考えるうえで重要なのは、「残業時間が少ない=負担が少ない」とは限らない、ということです。

本記事では、若手社員の体調不良退職の増加を踏まえ、製造業の経営者が押さえておきたい「見えにくい業務負荷」「相談しにくい職場環境」「体調不良のサイン」などについて、経営コンサルタントの視点から解説します。

1.若手社員の「体調不良退職」が増えている

まず注目したいのが、若手社員の退職理由における「体調不良」の増加です。今回取り上げた調査では、前職の退職理由の1番目または2番目に「体調を崩したため」を挙げた若者の割合が、2020年の10.8%から2024年には24.3%、2026年上半期には25.5%まで増加しています。2020年と比較すると、約2.4倍です。

もちろん、この数字だけで「すべての若者の体調不良退職が増えた」と断定することには慎重である必要があります。しかし、離職を考える際に「給与」「人間関係」「キャリア」「残業時間」だけではなく、心身の健康状態を退職要因として捉える必要性が高まっていることは見逃せません。

さらに重要なのは、すでに辞めた人だけの問題ではない点です。現在働いている若者の中にも、「このまま働き続けるのは難しい」と感じながら仕事を続けている人が存在します。退職という結果が表面化してから原因を調べるのでは、対応が遅くなりがちです。

2.残業が少ないのに疲弊する職場――「業務密度」という負荷

では、なぜ残業時間が減っているのに、体調不良による退職が増えるのでしょうか。その答えの一つが、「時間」ではなく「仕事の密度」による負荷です。

勤務時間内に、複数の仕事を同時に抱える、次々に依頼が入る、短納期の対応が続く、会議や段取り替えが連続する、ミスが許されない作業が続く、ほかの人のフォローまで任される——。定時で帰れていても、こうした状態が続けば、精神的な疲労はかなり大きくなります。

特に真面目で責任感の強い若手社員ほど、「頼まれた仕事を断れない」「迷惑をかけたくない」「期待に応えたい」と考えて業務を抱え込み、本人は「まだ大丈夫です」と言い続けます。ところが、本人の認識とは別に、睡眠・食欲・集中力・気分に変化が現れます。このようなケースは、タイムカードを見るだけでは発見できません。残業時間は「働いた時間」を示す指標であって、「仕事によって受けた負荷」のすべてを示す指標ではないからです。

3.製造現場に潜む「見えない業務負荷」

製造業の現場には、特に注意すべき「見えない業務負荷」があります。

  • 多品種・小ロット化による段取り替えや仕様変更の増加
  • 急な発注変動・納期前倒しへの対応
  • ベテラン社員の退職による負担の集中と技能承継のプレッシャー
  • 品質管理や安全確認など「ミスが許されない」緊張の継続
  • 交代制勤務・夜勤による生活リズムへの影響

一つひとつは小さな負荷かもしれません。しかし、それが積み重なれば、本人の負担は大きく変わります。しかも若手本人は「迷惑をかけたくない」と考え、断らずに引き受けてしまうこともあります。その結果、管理側が把握している業務内容と、実際の現場で行われている業務との間にズレが生じます。この「ズレ」こそが、離職防止を考えるうえで非常に重要です。

現場の様子を確認するときも、単に「問題ありませんか?」と聞くだけでは、本音は出にくいものです。むしろ、「最近増えた仕事はありますか?」「最初に聞いていた仕事内容と違う部分はありませんか?」「勤務時間内で仕事を終えるのに苦労していませんか?」「急な依頼は多いですか?」など、具体的に聞くことが有効です。

4.「相談しやすい職場」だけでは足りない理由

近年、多くの製造業でも1on1の導入や相談窓口の設置、管理職研修を行うようになりました。こうした取り組みはもちろん重要です。ただし、ここで一つ考えたいことがあります。「相談できること」と「相談した結果、状況が改善すること」は別だということです。

若手社員が「仕事が多くて大変です」と相談しても、上司が「そうなんだね。無理しないでね」と答えて終わってしまえば、本人にとっては「相談はできたけれど、何も変わらなかった」という経験になります。これが何度か続けば、次第に相談すること自体を諦めてしまいます。さらに「相談したら評価が下がるのではないか」「休んだら周囲から迷惑な人だと思われるのではないか」という不安があれば、なおさら本音は出てきません。

大切なのは、相談を受けたら話を聞くだけではなく、必要に応じて業務量の調整や分担の見直し、職場環境の確認まで行うことです。相談後の対応まで含めて仕組みを作ることが、離職防止につながります。

5.見逃してはいけない「体調不良のサイン」

体調不良による退職を防ぐには、退職直前ではなく、その前段階で変化を捉えることが重要です。次のような変化は、注意しておきたいサインです。

  • 遅刻や欠勤が増えた
  • 以前より疲れているように見える
  • 連絡への反応が遅くなった
  • 仕事上のミスが増えた
  • 「眠れない」「疲れが取れない」と話すようになった
  • 職場に行くことへの不安を口にする
  • 突然「辞めたい」と言い出す

ここで注意したいのは、これらを「本人の能力不足」と決めつけないことです。ミスが増えたのは、業務量が増えて処理しきれなくなっている可能性もありますし、人間関係のストレスが集中力に影響している可能性もあります。ミスの指摘だけではなく、「何か仕事をするうえで困っていることはありませんか?」という視点で確認することが重要です。

また、体調不良が疑われる場合には、会社だけで判断せず、医療機関や産業医など専門家への相談を促すことも大切です。企業の役割は診断ではなく、働く人が適切な支援につながれる環境を整えることです。

6.定着率を高める「3つのチェック」

ここまでの内容を、実務で使いやすい3つのポイントにまとめます。

残業時間だけでなく「業務密度」を見る
「残業ゼロだから問題なし」という判断をやめましょう。勤務時間中にどれだけ仕事が集中しているのか、同時に何件の仕事を抱えているのか、急な依頼がどの程度あるのか、特定の人に負荷が偏っていないかを確認します。

相談件数ではなく「相談後に改善したか」を見る
相談窓口を設置しただけでは、離職防止にはつながりません。業務量が減ったのか、役割分担が見直されたのか、担当者が継続してフォローしているのか。相談後の対応まで確認しましょう。

退職理由だけでなく「退職前の兆候」を分析する
退職者アンケートだけでは、問題の発見が遅くなります。欠勤が増えていなかったか、業務内容が変わっていなかったか、本人から何らかの相談があったか。こうした情報を蓄積すると、自社における「離職のパターン」が見えてきます。

7.まとめ|「残業が少ないから大丈夫」を見直す

残業時間を減らす、有給休暇を取得しやすくする、ハラスメントを防止する——これらは働き方改革の重要な第一歩です。しかし、それだけでは十分ではありません。これからの人材定着には、「制度があるか」ではなく「制度が実際に機能しているか」まで確認することが求められます。

定時で帰っていても、常に仕事に追われているかもしれません。有給を取得できても、休むことに罪悪感を持っているかもしれません。1on1を実施していても、本音を言えないかもしれません。大切なのは、限られた勤務時間の中にどれだけの負荷が詰め込まれているのか、困ったときに本当に安心して相談できるのか、相談した後に職場が変わるのか——という、もう一段深い視点です。

若手社員の体調不良を「本人の弱さ」だけでは説明しないことも重要です。同じような体調不良や退職が複数人で起きているのであれば、本人の問題ではなく、職場の仕組みそのものに原因がある可能性があります。若手の定着は、採用コストの削減だけでなく、生産性の維持や技術承継の面からも、製造業にとって経営課題そのものです。

「残業は少ないのに、なぜか若手が定着しない」。そうした状況が続いているなら、問題は「働く時間」ではなく「働き方そのもの」の中に隠れているのかもしれません。まずは、残業時間だけを見る管理から一歩進んでみてはいかがでしょうか。


若手社員の離職防止や職場環境改善、人材定着に関するお悩みは、経営コンサルタントの株式会社オアシスまでご相談ください。製造業の現場に合った具体的な改善策をご提案します。

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